ウブドの森へ ― 騒音の国から (バリ島日記②)
雑音と人の声と、チカチカした電飾。 ベトナムの騒がしい生活から、ま反対の場所にやって来た。 バリ島、ウブドの森の中である。 観光地として慣れているからなのか、インドネシアの人たちは こちらの存在を受け入れるのが早い。 微笑みと挨拶が、とんでもなく親しみに溢れている。 なんでもないのに優しくされると、勝手にジーンとしてしまう。 歳のせいね。たぶんそう。

田園風景、水路、瓦屋根、木枠の窓。 犬が野放しに歩いている。 昔の日本や、昔のベトナムに似た箇所があって妙に落ち着く。 ただ、ちょっとした祭壇があちこちにあり、お供えものが置かれている。 その飾り方を見て、ああ、ここは海外だった、と引き戻される。 バリ島です。

人の記憶なんて曖昧なもので、歳を重ねるほど、都合よく「いい思い出」に上書きされていく。 私の初めての海外旅行もバリ島だった。 クタビーチ。 大学の定期試験をなんとか乗り越えて、半分徹夜のまま飛行機に乗った。 友人とボロボロになって降り立ったデンパサール空港は、独特の匂いがした。 花の香りではなく、魚っぽい気がしたな。でも嗅いだことのない匂い。 でも、もうよく覚えていない。 若かったので怖いものなしで突撃したバリ島。 クタビーチはすでに観光化されていて、若い日本人女子学生が連れ立っていれば、そりゃ声もかかる。 そういうチャラい感じが元々得意ではなく、すぐに飽きた。 私はホテルでのんびり本を読んでいる方が好きだったし、 ホテルスタッフとカタコトで談笑する方がよほどリラックスできた。 買いたいものは特にない。 とにかく散歩。じゃらんじゃらん、散歩散歩。 そんなとき、ホテルのスタッフがレンタル自転車を教えてくれた。 知らない道をひたすらペダルを漕ぐ、走り回った。 ノーギア、ブレーキも硬くて扱いづらい自転車と格闘しながらガタガタの道をいく。 田園の中もガタガタ行った。 当時は日本人が珍しくて指を刺されたりもした。 貧乏女子学生には泊まれない超高級ホテルの前では、守衛さんにぞんざいに扱われ、 逃げるように去った。 借りた自転車はサドルもハンドルも合わず、 頑張って合わせていたら、お尻がだんだん痛くなった。 そして迷子になった。 暑いし、お腹も空くし、心細い。 そこでたまたま出会ったアイスクリーム屋さんで買ったココナッツアイスが、 びっくりするほど美味しかった。 目がひんむいた。 観光地から遠い場所だったからローカル価格だったのか、めちゃめちゃ安かった。 十円くらいだった気もする。 もちろん記憶はあてにならない。 幸せな上書きが入っている。 でも、初めての海外旅行で本当にワクワクした体験は、このレンタサイクルだった。 お尻の皮がズル剥けて、ホテルでうつ伏せになりながら、痛い痛いと友達と笑いこけた。 くだらないけど、大切な思い出。 初バリは、そんなふうに私の中に残っている。 そのときはウブドまで足を運べなかったけれど、 バリの魅力はウブドでさらに深まっていく。 移住生活ランキング
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