正解のない台所で― 発酵と果実で作る、層のあるカレー
家庭料理は、正解がないから面白い。 うちの夫はカレーが大好物である。 毎日でも食べられると言う。献立に行き詰まると「今日はカレーでいいや」と思うのだが、 夫は「カレーがいい」と言う。作る側としては、ある意味助かる。 とはいえ、店ではないので毎回同じ味は作れない。 いや、作らない。私は飽き性なので、つい実験してしまう。 市販のルウを使うこともあるが、ほぼブレンドだ。 クミン(粒と粉)、ターメリック、コリアンダー。 煮込むときには必ずトマトを一個刻んで入れる。カレーリーフやシナモンも少し。 ベトナムの台所に常備しているフェンネルの茎も放り込む。 甘さによって唐辛子を増減し、野菜だしはきのこの顆粒。塩味がきつくないので重宝している。

ルウもスパイスの量も具材も毎回違う。 今回は甘みのある業務用ルウだったので、唐辛子をやや多めに入れた。 それが我が家の定番カレーである。 定番といいながら、毎回違う。 最近の発見はマンゴーの種だった。 安いマンゴーの種ごとに混む。種に残る、繊維だらけの果肉をチャツネ代わりに煮込んでみたら、 思いがけず味に奥行きが出た。 そして今日の再発見は、失敗した豆乳ヨーグルト。 温度が高すぎて分離してしまった。腐ってはいないが、そのまま飲む気にはなれない。 とりあえず振って冷蔵庫に入れておいたら、翌朝には、分離していたそれが再びなじみ、 とろみのある濃厚な飲む豆乳ヨーグルトに近づいていた。

飲んでもまぁまぁ美味しい――ただ、カレーに入れてみたらどうだろう? いつも水を入れる工程で、その“出来かけ”を加えてみては? やってみると、驚くほどコクが出た。 乳酸とトマトの酸が重なり、 豆乳のたんぱく質とルウの脂質がなじむ。 味が均一になり、奥行きが生まれる。 理屈は後からついてくる。けれど台所で起きたことは、もっと単純だった。 失敗したものを、捨てなかっただけ。 酸味が少し前に出たので、アプリコットジャムを大さじ1を加えて時間を置く。 果物の甘みが角を取り、味はさらに丸くなることでしょう。 いつもの味とは違うカレーができた。 今夜の夫の反応が楽しみである。 カレーはスパイスだけで作るものではない。 発酵と果実を重ねることで、味に層が生まれる。 失敗を面白がれた日は、たいていいい日である。 移住生活ランキング
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